中国SF短編集「折りたたみ北京」感想

Twitterに書いた感想まとめ

 

陳楸帆『鼠年』

産業発展を続ける国での知識階級の若者の憂鬱、不明瞭な利害関係のなかで誰もが(鼠も!)大きなシステムの駒でしかないこと、確かに何かを感じたはずなのに無意味であること。

理知的な筆致で、切実なのに虚無的で幻めいているのがすごく良かった。

 

陳楸帆『麗江の魚』『沙嘴の花』

全てが幻のようで何もつかめないこと、大人になったけれど広大な社会のなかで誰もが無力であること。

私小説のようでいて、IT技術を延長したSFガジェットが出てくるのが楽しい。 山寨(いわゆる不法コピー製品)が作られるくだりが切実で哀しくて良かったな。

 

夏笳『百鬼夜行街』

消えゆく懐かしい記憶の媒体の終わり

発展した技術は魔法のようでほぼファンタジーと思える短編だけれど、科学技術が行き着く先の功罪を描いているこの小説は紛れもなくSF。 無垢で優美で匂やかな文章だからこそ、失われてしまうものが美しく切なかった。

 

夏笳『童童の夏』『龍馬夜行』

科学技術が織りなす無垢なる夢

トントン可愛い! 心配いらん!

 

馬伯庸『沈黙都市』

社会派SF!

15年前の作品なのでインターネットが文字中心で、活用・統制方法含めてちょっと昔の印象を受けるけど雰囲気は良かった。 すごく読みやすい文章なので、同作者が書いてる娯楽寄りの作品がもっと読みたいかな。

 

郝景芳『見えない惑星』

カルヴィーノの見えない都市フォロワー

後半の生物学とファンタジーが混じりあっているのが不思議でいいな。 前半は社会描写に親近感があるせいか、ちょっと皮肉みが強いかも

 

郝景芳『折りたたみ北京』

あまりに広漠な現実と、科学とフィクションの微かな力

SFとしてすごく良かった! 全体的に現実との折り合いの苦さと諦念に満ちてるけれど、時折幻のようにきらめく知性のかがやきとフィクションの飛躍がすごく魅力的だった。 文章のバランスがいいのも好き。

 

程婧波『蛍火の墓』

美しくロマンチックな寓話

SF?

  

劉慈欣『円』『神様の介護係』

生命や情愛など多くのものを推進力に替えて得る圧倒的なパワーと理

三体が世界中で売れるのも分かる気がする。このグローバル時代に通用する圧倒的なパワーを感じる! 他の作品が繊細に描いていたものを全部前に進むための燃料にして進むんだ!一方で、猜疑心と敵意に満ちた宇宙観はどこか歪んでいる気もする。作者のエッセイ読むとそう思わざるを得ない歴史的経緯があるのも分かるが…