Kentucky Route Zero(ケンタッキールートゼロ)日本語翻訳の状況と改善に向けて


この記事は、ゲーム” Kentucky Route Zero”の日本語翻訳の状況について、本作の一ファンの視点から書いた記事です。

『このゲーム、翻訳がひどいって聞いたけど』『翻訳よくなったらプレイしたいけど』などご興味のある方は、ご一読いただけましたら幸いです。

 

 

 

 

1 ” Kentucky Route Zero”ってどんなゲーム?

アメリカのケンタッキー州を舞台にした5つのチャプターと5つの幕間劇で構成されたポイント・アンド・クリックアドベンチャーです。

パズルや謎解きなどはなく、文章を読み、選択することでゲームを進めていきます。演出が非常に洗練されており、幻想的に現実社会を描き出す本作は、プレイする英米文学に近いかもしれません。

ゲーム内容の詳細は、こちらに紹介を書いています。 

ashi-yuri.hatenablog.com

 

本作は、2011年にカリフォルニアの美術学校の学生2名が始めたプロジェクトが発端です。Kick Starterでゲームを作るためのクラウドファンディングを行い、その後2013年のAct.1から1チャプターずつリリースを行ってきました。そして、企画が開始して10年後の2020年2月に最終章のAct.5がリリースされました。また、完成と同時に、日本語含めて9か国語対応となったコンソール版「TV edition」が発売されました。これに合わせてPC版も日本語対応となっています。

 

文学的で幻想的な雰囲気・繊細なアートワークを用いながら静かにアメリカ社会を描く本作は、IGFやGame Developers Choiceなど各種ゲームアワードで美術部門やナラティヴ部門を受賞するとともに、大手ゲームメディアPolygonで「2010年代で発売された中でプレイすべき10本」に選ばれるなど、その内容は高く評価されています。

 

開発はアメリカのCardoboard Computer(社員はおそらく数人程度)。パブリッシャーはコンソール版(TV edition)がAnnapurna Interactive、PC版がCardoboard Computerです。

 

2 日本語翻訳はどんな感じ?

PC版についてはスクリーンショットで見た通りです。クリアまでの約10時間、こんな感じの文章が続きます。

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機械翻訳調の文章たち

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謎の訳語「マッスルメモリー」→「身体が覚えてる」ぐらいの意味、

主人公(初老男性)のコンウェイの口調も不自然な感じ

(主な問題点)

  • 機械翻訳過ぎて日本語の体をなしていない文章が多数ある(特に第3幕以降は機械翻訳調がひどくなる)
  • 自然に訳されているところもあるが、機械翻訳との落差が大きく集中できない
  • 静かな雰囲気の作品なのに、妙にフランクな話し言葉・聞きなれない言葉が混じる
  • 同じ人物なのに一人称が変わったり、男性口調・女性口調が突然入れ替わる など

 

コンソール版のTV editionは発売後、一度パッチが当てられ機械翻訳がだいぶ改善して、ストーリー自体は分かる状況になりました。ですが、ゲーム全体を通して不自然な部分・誤字・直訳等が多く、テキストの良さを味わえる状況とは言い難いところです。

(自分の持っているものはPC版のため、動画で確認させていただきました)

 

このゲームは文章を読むことがゲームの主要な体験の一つです。また、文章・美術・音楽を通して作りこまれた不思議で繊細な雰囲気が、本作の魅力の大きな要因となっています。しかし現状の日本語訳では、本作の意図するゲーム体験やその魅力をほとんど引き出せていない状態です。

 

 

3 なんでこんなことになったの?

本作にクレジットされている翻訳者・翻訳会社「Emilia de Sntis and team at EDS Wordland Ltd.」は、検索したところイギリスにある会社のようです。

この会社のほかの翻訳作品としては、翻訳修正前の“Celeste”(現在は別の翻訳会社『ハチノヨン』が翻訳したものにアップデート済み)や、傑作ストラテジー“Into the Breach”、ソウルライクの”Ashen”、短編パズル“Florence”の4作品があります。(“Ashen”と“Florence”は、本作のコンソール版と同じAnnapurna Interactiveがパブリッシャーとなっています)

翻訳作のレビューを見ると、修正前“Celeste”や”Ashen”については、日本語翻訳の評判はあまり良くありませんでしたので、もともと自然な会話文や難解な文章の日本語訳はあまり得意でない会社のようです。(その代わりインディゲーム用として、予算が比較的小規模でも多言語対応できる会社なのかもしれません)

(参考)

高難度アクション『Celeste』に「チャプター9:別れ」を追加し、新たな日本語テキストに差し替える無料アプデ配信。PS4版も国内発売 | AUTOMATON

【吉田輝和の絵日記】風ノ旅ビト&ソウルライクRPG『Ashen』知らない内に他プレイヤーと合流 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

 

また、本作の韓国語訳やロシア語訳にはネイティブと思われる方の監修が入っていますが、日本語には監修者がいません。そのため日本語話者による全体チェックが行われず、不自然で日本語の体をなしていない文章がそのまま収録されたのかと推察します。

そして、本作の開発を行っているCardboard Computerは、本作が初作品であり外国に展開するノウハウが少ないこと、数人だけのアメリカの小規模デベロッパーであり社内に日本語を解する人がいないであろうことを考えると、日本語翻訳の品質管理は難しかったんだろうと思います。

 

結果論ですが、9か国語という多言語対応を行う中で、複雑かつ文学的な文章を日本語に翻訳するのが苦手な会社が翻訳を担当し、最後まで日本語翻訳のクオリティチェックが十分に行われなかったことで、今作のようなひどい状態の翻訳が製品版に収録されることになってしまったようです。

 

ただし、そこに至る経緯は当然わかりませんし、翻訳にかかった金額・翻訳期間・契約条件など色々な事情が絡んでいると思うので、デベロッパー・パブリッシャー・翻訳会社のどこに問題があるのかは、正直よく分かりません。

 

※ちなみに他の言語についてもSteamレビューを調べたところ、韓国語・ドイツ語で一部「翻訳がいまいち」と言われていましたが、ゲームプレイに支障をきたすほどひどい状況ではないようです。

 

4 日本語翻訳の改善に向けて

2021年4月にデベロッパーのCardboard Computerに本作の日本語翻訳の状況についてメールで問い合わせたところ、「具体的にいつになるかは分からないけど、翻訳改善のための仕組みづくりを頑張っている」との回答をもらいました。

 

プレイヤーとしては正直なところ、これだけの品質・分量の文章を手直しするとなると相当な手間と時間とお金がかかるのではないか、小規模デベロッパーにとってはかなりの負担になるのではないかと思っています。ふわっとした話でどれだけ期待していいのか分からないところではあるんですが、完成が危ぶまれていた本作を10年かけてなんとか素晴らしい形でまとめたデベロッパーでもあるので、一ファンとしてはその言葉を信じて改善を待ちたいですね・・。

 

本作を買ったけれど翻訳がひどくて途中であきらめた方・積んでいる方、翻訳が改善されたら買ってみたいんだけどということで「早く翻訳改善してほしい」と思ってる方は、デベロッパー・パブリッシャーに下記宛先から改善リクエストを送ることができます。

リクエストしたからと言ってすぐに対応されるわけではないでしょうが、小規模デベロッパー・インディー中心パブリッシャーなので、「日本語翻訳の改善を待っている人がいる」と直接声を届けることは、少しは後押しする効果があるかもしれません。

 

(宛先)

PC版

開発会社・パブリッシャー:cardboardcomputer@gmail.com

 

PS4,Switch,X box Oneなどコンソール版(TV edition)

開発会社:cardboardcomputer@gmail.com

パブリッシャー:help@annapurnainteractive.com

 

5 最後に

私自身は“Kentucky Route Zero”というゲームが本当に好きだし、自分が今まで触れてきた作品のうちで最上のものの1つだと思っています。

ですが、ゲーム体験の本質を損なうような品質のものを「日本語対応」として売るのは、デベロッパー・パブリッシャーとも日本のプレイヤーに対してとても不誠実だし、ゲームの内容ではなく翻訳のひどさばかり取り沙汰される今の状況はとても残念に思っています。

デベロッパー側に翻訳改善の意思があるとのことなので、まずはその意思を尊重して、一日でも早くこの状況が改善されることを願っています。

 

本記事が、同じように“Kentucky Route Zero”という作品を日本語で楽しむことを期待をしていたのにまともにプレイすることができず、残念な思いをされている方にとって、少しでも役立てる情報であれば幸いです。

 

(2022/6追記)趣味で私家翻訳modを作りました。 

 

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