この記事は、何もわからないけど、海外ゲームを有志翻訳・日本語化してみたいなと思い立った方に向けた記事です。自分の体験を元に、有志翻訳を思い立ってから、実際に翻訳modを作り公開するまでの流れをおおまかにまとめてみました。なお、筆者は技術的な知識はほぼありませんので、技術解析情報については他の方たちの情報を参照してください。
実際にはいろんな進め方・やり方がありますので、一つのテストケースとして参考になりましたら幸いです。
※modとは
ゲームの改造データのこと。本記事ではパッチとほぼ同意味で使用しています。
- 1 翻訳したいゲームがある
- 2 翻訳・日本語化情報を確認する
- 3 ゲームエンジンを確認する
- 4 日本語化してみる
- 5 テキストデータを翻訳する
- 6 ゲーム上で確認する
- 7 開発者等にmod作成・配布の許諾を取る
- 8 modを公開する
- 9 楽しむ
- ※有志翻訳するのになんで開発者等からの許諾が必要なの?
- 技術解析系リンク
- 最後に
1 翻訳したいゲームがある
まずこれがないと始まりません。初めて有志翻訳に取り組む場合、1時間程度のボリュームのゲームでも翻訳modを完成させるのに数十時間かかることはザラです。まずは気に入ったゲームから始めることをおすすめします。
いろいろ大変なことも多いですが、どの工程も楽しい趣味ですので一つずつ進めていきましょう。
2 翻訳・日本語化情報を確認する
該当作品に日本語対応や多言語化の予定がないか確認しましょう。今は日本語対応していなくても、これから日本語対応する場合もあります(最近は中規模インディゲーム位だと、公式で日本語対応してくれることも多い)。また、公式や有志による翻訳プロジェクトが進んでいる場合はそれに参加するのが一番早いです。
(主な確認場所)
- 公式ホームページ、Steamページ
- 公式Discord,TwitterなどのSNS
- 該当作品のSteamフォーラムのスレッド
- GoogleやTwitterで「ゲーム名、日本語」「ゲーム名、Japanese」などを検索
- ゲームスパークの最近の開発者インタビューでは有志翻訳対応について確認してくれています。
3 ゲームエンジンを確認する
ゲームエンジンとは、ゲームをどのように動かし表示させるかなどの基本的な処理を行うソフトウェアです。インディーゲームではメジャーなUnity、リアルな描写のできるUnreal Engine、2DRPGでよく使われてるツクール系、ノベルゲーム系に多いRen’Py、その他オリジナルエンジンなど様々な種類のゲームエンジンがあります。日本語化の方法は、このエンジンごとにやり方が異なります。
そのため、まずは日本語化したい作品でどのゲームエンジンが採用されているか確認してください。ゲームのデータフォルダのファイル構成を見たり、データベースで検索するとわかる場合が多いです。
Unityなどメジャーなエンジンだと、ある程度日本語化の手法が確立しており、情報が比較的充実しています。下記技術解析系リンク先を確認したり、「エンジン名、日本語化」「ゲーム名、日本語化」などの検索ワードで日本語化の情報を探してみましょう。
逆に、日本語化手法が確立していないエンジン、独自エンジンだと自分で探りながらの日本語化になります。ハードルは高めですが、できないわけではない場合も多いのでこちらも各種技術解析系のページを参考にしてみてください。
4 日本語化してみる
ゲームエンジンがわかったら、日本語化してみましょう。主にすることは二つです。
- ゲームデータ内からテキストデータを探し出して日本語にする。
- 日本語に対応したフォント(もともと入っているフォントが日本語対応してる場合もあるし、別途対応フォントを差し込む必要がある場合もある)を使い、日本語表示ができるか確認する。
一般的に、多言語対応、特に中国語(簡体字or繁体字などの2バイト文字)に対応している作品は、テキストデータの位置がわかりやすく、フォントとテキストを入れ替えるだけでよい場合が多いため、日本語化が比較的容易です。
一言語のみ対応の場合は、そもそもゲーム自体が多言語対応を想定しない作りになっている場合があるので注意が必要です。
Ren’Pyなどゲームエンジン自体が多言語化フレンドリーであったり、UnityであればXUnity.AutoTranslatorなど強力なツールが使える場合もあるので、一概には言えませんが…
技術的な詳細は先ほど同様、各種技術解析系のページを参考にしてください。
5 テキストデータを翻訳する
テキストデータを翻訳し、日本語にします。
翻訳手法には、機械翻訳のみ、機械翻訳を手直しする、人力で翻訳するなど色々なやり方があります。作品のテイストやテキストの分量に合わせてお好きな方法を選んでください。
翻訳・mod作成作業のために作業所を立てて複数人体制で進めていくやり方もありますが、自分は携わったことがないので今回は触れません。
6 ゲーム上で確認する
翻訳したデータをゲームに反映して、うまく表示され、プレイできるか確認します。
大抵予期せぬいろいろなことが起こるので、ひとつずつ解決していきましょう。
(いろいろなことの一例)
- 改行されない、枠からはみ出てる
- 豆腐文字(□□)で表示される
- 誤字脱字・へんな日本語
- 翻訳されてない部分が残ってる
- 音が出なくなった
- バグって起動しない、途中で止まる
- 画像フォントで日本語表示できない
- 画像ファイル内の文字が翻訳できない
- などなど
※個別ケースごとに解決法は異なりますので、色々調べたり試したり頑張って!
(こんなことも試してみよう)
有志翻訳コミュニティに聞いてみる
Twitter等で発信を行っている場合は、困っていることを呟くと、意外に助けてくれることがあったりします。また、Steamには日本語化支援コミュニティがあるので、ここに入ってDiscordで情報交換をするのもいいかと思います。有志で運営されているので、自分で調べて聞きたいことを明確化してから質問しましょう。
そこは諦める
意外に大事。今の技術力では解決が難しい場合、ガイドや注意事項を付けて解決したことにしてしまいましょう。100%は達成できなくてもいいです。頓挫するより、まずは完成させることを目指しましょう!
テストプレイ
思わぬバグや誤字・脱字の確認のため、公開前にテストプレイすることをおすすめします。第三者の目で見てもらう観点から、もし信頼できる知り合いがいるなら試遊してもらうのもおすすめです。
7 開発者等にmod作成・配布の許諾を取る
開発者などゲームの著作権者に翻訳modを作ることの許諾をもらいましょう。
※有志翻訳するのになんで開発者等からの許諾が必要なの?
連絡のタイミングですが、自分の場合は日本語化できることを確認し、modが完成する目途が付いたら連絡しています(完成させられず、相手をぬか喜びさせたら申し訳ないので)。modが完成してから報告する方もいますし、まずは確認した方がいい場合もあるし、プロジェクトごとに事情が異なると思いますので、そのあたりは適宜ご判断ください。
あくまで一例ですが、Momotypeという個人製作のフリーゲームの日本語化を行う際に許諾を確認したメールを一部抜粋して掲載します。小規模開発者に許諾確認を送付する際の参考になりましたら幸いです。
個人開発者や小規模ディベロッパーは気軽に聞いても結構答えてくれる場合が多いです。ゲーム開発者は大抵忙しいし、日本語化を想定していない場合も多いことを念頭に置いて連絡をとるといいかなと思います。開発者が日本語化に前向きな方だと、翻訳用データを提供してもらえたり、公式に採用されたりする場合もあります。
他にも、動画配信してもらいたい作品なら配信・収益化しても問題ないか、翻訳データ以外のデータもパッチ形式として配布したい場合はその旨も、公開までに確認しておいた方が良いでしょう。
なお、中規模以上のディベロッパーが開発した作品やそれなりの規模のパブリッシャーが発売している作品などは、ビジネス・契約の話が出ることもありますのでご留意を。
8 modを公開する
翻訳modを公開し、ダウンロードできるガイドページを作ります。
ネットに転がってるmod(改造データ)はまず怪しいと思われるので、公開ページの説明はなるべくわかりやすく明確に書くとともに、ファイルにはreadmeを添付することをおすすめします。丁寧に書いておけば、色んな人が使ってくれやすくなるとともに、不要な問い合わせやトラブルを避けることにも繋がります。
- 導入・利用は自己責任である旨の免責事項は必ず記載しておきましょう。
- 日本語化modを利用したい方はPCに詳しくない方も多いので、導入方法が複雑な場合は、スクショや動画など視覚的にわかりやすい説明を載せておくと親切
- 翻訳品質は人によって期待値が異なる場合が多いので、スクショや冒頭動画を貼るなどどんな仕上がりか明確にしておくと誤解が少なくなるかも(特に機械翻訳を使用する場合)。
※文章で書いた注意事項をきちんと読んで実践してくれる人は、個人的体感ですが半分~9割くらいです。それを踏まえ、必要な免責事項などはあらかじめ書き込んでおきましょう。
自分はこんな感じに書いたのでご参考まで。
【開発者等の許諾がある場合:Critter for Sale】
ガイドページ
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【開発者等の許諾がない場合:Kentucky Route Zero】
ガイドページ
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9 楽しむ
公開したら、ほかの人がゲームを日本語で遊んでる様子を見て楽しみましょう。
全然遊んでくれなかった場合は、自分で宣伝したり、Steamレビューに書き込んだり、Steamフォーラム「日本語化情報」(著作権者の許諾ある場合のみ)などで周知してもいいかもしれません。
この趣味が気に入ったら、次に有志翻訳する作品を探してみてください。
※有志翻訳するのになんで開発者等からの許諾が必要なの?
ゲームを構成しているエンジン、コード、モデル、画像、サウンド、テキストなどのデータにはそれぞれ製作者に著作権、翻案権等が存在します。これらの権利は、製作者が苦労して作ったゲームやその中のデータを、勝手に使われたり意図しない形で改造されたりしないために存在する権利です。
日本語化や有志翻訳の過程で、リバースエンジニアリングによりゲーム内のデータを見たり改造したりする過程が生じますが、個人のPC内で楽しむ以外の用途に用いる(配布する、送付する、共有するなど)ことは上記権利の侵害にあたる可能性がありますので、データの取り扱いには十分ご注意ください。
現状の日本の法体系(2022年12月現在)では、有志翻訳modの作成は開発者等の著作権者から翻訳データの作成・配布の許諾があれば権利侵害ではなくなります。このため、本記事ではゲームの有志翻訳を行うにあたっては、原則、著作権者の許諾を取ることを推奨します。
連絡したが返事がない、古い作品のため開発者やパブリッシャーの連絡先が不明、その他もろもろの事情により許諾がない場合は、あなたの判断・責任においてどうするか決めてください。
著作権者が拒否した場合は、個人利用以外での使用は諦めましょう。
なお、本記事において許諾不明、許諾ない状態で配布されている日本語化パッチ・翻訳modを非難する意図は一切ありませんのでご留意ください。
利用者もこのことを念頭に、導入・利用にあたっては自己の責任で使用してください。
(参考ページ)
二次的著作物の利用:著作権法 | 総務辞典 | 月刊総務オンライン
技術解析系リンク
ゲームエンジンの特定から、日本語化の手順・フォントの差し込み・テキストデータの探し方まで素人にも分かるように解説してくれるサイト。
有志翻訳始めたばかりの人は、有料記事含めてnote読んでおくのがおすすめです。技術力ひくい民が100時間かかっても辿りつけないすばらしい知恵が詰まっています。
ようげさんの初心者にもやさしい有用情報集。Unity製・Unreal Engine製ゲームを翻訳する際は参考にしよう。
日本語化情報(特に技術面)について網羅的に掲載してくれている大変ありがたいリンク集。また、上記ページ以外の解析情報も非常に有用なので要チェック。
他にもいろいろな技術解析・解説サイトがあります。いつもお世話になっております。
最後に
本記事は自分の経験のみを元にして書いています。着手から完成までの流れが把握できることを目的に書いたため、個別の方法・技術論などはかなり端折っており、いろいろ不足や補足すべき点も多いかと思います。ぜひ有志翻訳に携わられた皆様の経験をそれぞれ共有していただければ幸いです。
最後に、本記事を読んで、なんとなく有志翻訳に着手してみようかなという気になる人が一人でも増えれば嬉しいです。いろいろ大変なことも多い趣味ですが、データをいじってうまく表示できるよう色々試したり、自分が気に入ったテキストを翻訳したり、日本語化されたことでより多くの人がゲームを遊んでいる様子を見たりするのは、好きなゲームをより深く楽しむ一環としてとても楽しい作業でもあります。
それでは、好きなゲームを日本語でお楽しみください。