犬をなでるゲームを作ったので、作ってる時と公開後にいろいろ考えたことの記録
(作ったゲーム)
あなたの犬をなでるゲームです。
EDまで1分程度、ED全10種のちいさなクリッカーノベル
制作はHumanoさん、自分は原案・脚本を担当しました。
1分でたくさん犬をなでられるので、よければ遊んでみてください。
はじめに
- オリジナルの創作をしたことがない、絵も描けない、コードも書けないアマチュアが、ひょんなことから原案・シナリオ作りでちいさなフリーゲームを作る記録
- ほかのゲーム開発者さんはいちいち文字にすることはないと思いますが、みんなこの何百倍以上もいろいろ考えてゲーム作ってるんだなと実感しました。すごい!

きっかけ
数年前のKentucky Route Zero の私家翻訳のテストプレイの頃からお世話になっているHumanoさんからある日、「最近ミニゲームを作っているので、シナリオ提供してもらったらゲーム作ります。内容は小粒ならご自由に」という趣旨のDMをもらう。
そんな奇跡みたいなことあるんだ、という驚きとうれしさの反面、オリジナルで何か作ろうと思ったことがないのでシナリオやアイデアのストックはない。
Humanoさんのデザインやカラーリングのセンスがとてもすてきなので、それをいかしたゲームが作れたらいいのになあ、と思ってしばし回答を保留させていただく。
原案
1ヶ月近く考えてもなにも思い浮かばなかったのでどうしようかな、と思って参考にHumanoさんが作ったゲーム(シナリオ:千葉集氏)の犬育てシミュ「犬にしてくれ」を遊んでいて、ふと「犬」のゲームいいなと思う。
そう、ゲーマーが好きなものといえば「犬をなでる」!
Petting animals in Assassin's Creed Shadows unlocks them for your hideout, where you can place dozens of new friends. pic.twitter.com/sbpkWIepkb
— Can You Pet the Dog? (@CanYouPetTheDog) 2025年3月20日
ということで、犬をなでるゲームを作ることにする。
ゲームの材料のなかで自分が作れるものは文章しかないので、ジャンルは文章主体のゲーム=ノベルゲームにする。犬をなでるノベルゲームとは?
シナリオ
「犬をなでる」行動を起点にいろいろ起こるのが、小粒でシンプルなノベルゲームとして楽しそう。
ということで、クリックして犬をなでるというインタラクトを挟むことで話が進むように文章を組み立てる。どのエンディングでも犬はハッピーに!
犬を飼ったことはないため、シナリオは犬との数少ない思い出やゲーム・各種創作物のすきな犬の描写から作った。犬は強いイメージを持っている生き物なので、これまで触れてきた創作物にだいぶ助けてもらえた。このゲームのシナリオの中に犬への愛があるとしたら、それはたぶん、いろいろな作品やそれを作った人たちが語ってきた犬との愛によるものなのだと思う。
【主な参照作品】
ととのいシミュレーター(いぬED、犬はたいせつ)
Kentucky Route Zero(犬を名付ける意味、ついてくる犬、犬と家、犬と別れ)
Momotype(「ペット」を飼うことと愛)
That Which Gave Chase(犬と信頼)
GRUNN(庭にあるふしぎな洞窟を探検する)
映画ファースト・カウ(冒頭、ふしぎな二体の骨を見つけるシーン)
実在の犬の思い出(犬との散歩の情景、待っている犬)
書いているうちに、自分の趣味で眠りや不在などのテーマが少しずつ入り込んでくる。
よくばってSFぽい展開や言葉あそびみたいな展開など好きなものを色々詰め込んだら、10種エンディングができた。虚数反転犬はいかにもSFぽくてお気に入り。不在の犬(iの二乗で存在値が-1+1=0になった)もカルヴィーノの「不在の騎士」ぽくていい。どの犬もお気に入りです。かわいいね。
仕上げに、骨や眠りなど各エピソードに共通するモチーフを散りばめて作品の一貫性を強くした。全エンディングをプレイして全体がどことなく繋がっている感覚があるとおもしろそう(厳密な時系列や因果関係はない)。

犬の思い出(軍用犬のジャーマンシェパード)
親の実家でむかし飼っていたという、軍用犬のジャーマンシェパードについて。
その犬は終戦直後に軍隊の人から引き渡されたという犬で、親の実家は地方の大きめな複合農家なのですが、庭も広いし食べ物にも困らないだろうということで貰い受けることになったそうです。
名前は「〜・フォン・〜」(〜の部分は誰も覚えてない)というドイツの貴族姓を持ち、訓練もしっかりされたたいそう立派な犬で、無駄に吠えたり行儀の悪い振る舞いをすることは一切なかったそうです。プライドが高く、親戚側で「太郎」みたいな新しい名前を付けてやっても応じることはないし、親戚の家族の誰にも尻尾を振ったり懐いたりすることもありませんでした。子供だった親は怖くてほとんど近寄らなかったそうです。
ですが、番犬としては非常に立派に働き、普段はもの静かでぼんやりとしていたのですが、ひとたび不審者が近づくともの凄い勢いで吠え立てて追い返していたらしいです。そして数年間、農家で番犬として働いた後にひっそり死んだとのことです。
何となくこの話を覚えていたので、エンディング8「いつまでも」(棒を後ろに投げる)を作りました。最後まで職責を果たし、誰にも懐かなかった犬の冥福を祈って。
ゲームができる
Humanoさんのセンスをそのまま活かしたゲームが見たかったので、シナリオとゲームの進行や展開を書いた原案をお渡しし、あとはおまかせしてのんびり待っていると、「ゲームの骨組みができました」と連絡がある。
ゲームができてる!犬めちゃめちゃかわいい!動いてる!すごい!!犬が消えたり骨になったり反転したりするの、たのしい!

自分はいわゆる紙芝居的なノベルゲームを想像していたのだけれど、作ってもらった犬はアニメーションが付いていきいき動き、格段に犬が「存在している」感が上がっている!画面はは鮮やかなのに目にうるさくなくて心地よく、とてもすてきなバランスでうれしい。このゲームはもう成功。
印象的でいきいきとしつつ、シンプルでほどよく抽象的な犬の造形は、後段のプレイフィールのところで話す自分の作りたかったゲーム体験に非常にマッチしていて、いろいろ汲み取って形にしていただけて本当にありがたかった。
基礎部分はできたので、あとはゲーム体験をよりよくすべく細かい仕上げ施していく。
修正と改善
短時間・ワンアイデアのゲームなので、クリック=犬をなでるという体験をできるだけ厳密に成立させてプレイヤーの没入感を高めたい。「なでる」というシンプルなインタラクトを通じて、シナリオに書き込んだプレイヤーと犬とのふしぎな信頼関係をしっかり体感できるようにゲームを整えていく。
(修正点)
- クリックすると軽めSEを鳴らす+カーソルを手の形に変更(なでた感を出す!)
- クリック要請時のエフェクト「Tap」→「なでて」に変更
- 犬の鳴き声SEは、クリックごとに鳴らさず最後だけで控えめに(実際のしつけられた犬はそんなに吠えないから)
- 「犬に名前を付けて」→「犬の名前を教えて」など、ガイド文では犬とプレイヤーの関係を指示しない(犬とプレイヤーはゲーム開始時点ですでに関係性ができあがっている設定だから)
- 文章送りのタイミング などなど


Humanoさんがいい感じにこちらの意図を汲み取って直してくれるので、修正作業はさくさく。効果音の種類やタイミング、インタラクトの反応速度、UIの誘導、文字のフォント、シナリオの言葉、こまかいひとつひとつの調整の積み重ねにより、期待していたプレイ体験へとぐっと近づけていけるのがおもしろかった。
(エンディング数が10種類と多く、作業量を結構増やしてしまったのは反省......)
BGM
BGMでゲーム全体の雰囲気を決めよう!
仮で付けてたのはゲームっぽいポップな曲だったけれど、小品クラシック曲を使いたかったのでその路線で曲を探す。ゲーマーなので「月の光」*1みたいなおしゃれクラシック曲使いをしたい。
最初は気取ってドビュッシー「子供の領分」やラヴェル「クープランの墓」を考えたけれど、実際自分の文章に合わせると曲だけが突出して繊細・おしゃれになることが判明。子犬のワルツやトロイメライなど、かわいらしく落ち着いた小品をいろいろ探して、最終的にドヴォルザークの「ユモレスク」になりました。
ユーモラスでのんびりしてるのが散歩気分でいいね。中盤がドラマチック。
音楽素材:音楽の卵
公開の準備
タイトルを決める
The dog you pet is your dog
理由:語呂がいいから・他のゲームと重複しないから
副題はわかりやすく「犬をなでるゲーム」にしました。
公開場所
5-10分のフリーゲームはブラウザじゃないとなかなかプレイするハードル高いと思う。のでブラウザでプレイできる環境がかんたんに用意できるのと、自分でいつも使ってるということで、公開場所はitch.ioにした。審査なし・登録簡単。
itchは海外の個人開発ゲームが多く海外プレイヤーも多いプラットフォームなので、説明に英語を併記しておいたら、海外の人も数人遊んでくれてコメントくれた。Got it!
結果見ると97%の人がブラウザでプレイしてました。念のためWindowsとMac両方でDL版用意したら、DLしてくれた人もいてくれてうれしい。テンプレに沿って作った公開ページはこちら。
タイトル画面
最後に、あざやかな黄色のタイトル画面を作ってもらって完成!
ホームページでもSNSでもすごい目立つ。いいね。

公開と企画
ふだんから使ってるTwitterとBlueskyで公開のお知らせ。考えていたプレイヤー数は、SNS上の知り合い10人+犬好きな人5人ぐらい。
また、公開前にどんなゲームか説明も兼ねて、一週間くらいゲーム作成日誌を載せていた。少しは作品について知っていた方が興味を持ってもらいやすいかなという考え。自分もそうだけれど、SNSで見つけた知らないゲームを実際にプレイするのはハードルがあると思う......知らない人の作品は特に。
ゲーム公開お知らせツイート(2種)はこんな感じ
リンク込みver.
The dog you pet is your dog
— ashi_yuri (@mattakushiranai) 2025年4月25日
犬をなでるゲームです。
EDまで1分程度、ED全10種のちいさなクリッカーノベル
どのエンディングでも犬はハッピー!
骨をたどり眠りに包まれた、ミニマルで不可思議な犬なでをお楽しみくださいhttps://t.co/KfUsHxGseH pic.twitter.com/OCfLA2Vzye
リンクを次のツイートでぶら下げるver.*2
The dog you pet is your dog
— ashi_yuri (@mattakushiranai) 2025年4月25日
犬をなでるゲームを作りました。
5分で終わるちいさいノベルゲーム pic.twitter.com/QyixVwZ6zR
全エンディング回収企画
単一エンディングだけでなく、たくさんのエンディングを巡ることでテーマが見えてくるシナリオにしたので、できれば遊んだ人にエンディングいろいろ見てほしく、全ED10種を見た人は#thedogyoupetisyourdogとタグつけてコンプリート報告するとお礼の絵をリプライで送るという小さな企画を実施した。
ゲーム内でインセンティブを持たせること(EDコンプリート時にお祝いメッセージが出るなど)も検討したけれど、今回は実装断念したのでSNSで代替措置を取ることに。自分は攻略探すのめんどくさい派なので、エンディングチャートは作品ページにぜんぶ書いておく。
お礼絵はゲーム内の犬の画像をもとにPowerPointで作った。いつもありがとうMicrosoft。
(おまけ)全エンディングを見た方へ #thedogyoupetisyourdog のタグをつけて「すべての犬をなでました」等ご報告いただけましたら、リプライにてささやかなお祝い画像とコメントを送らせていただきます! pic.twitter.com/iF4tSDc6Q1
— ashi_yuri (@mattakushiranai) 2025年4月25日
もうひとつ、拾ったものをSNSでつぶやけると楽しそうだなと思ったので、各エンディング画面にSNSシェアボタンも付けてもらっておく。
公開後とプレイ感想
バグや不具合はなく、無事色んな人にプレイしてもらえた。2週間で約500人の人に遊んでもらい、SNSで数十件の感想と想定以上の反応をいただくことができた。無料・短時間気軽さとプレイに人を選ばないハードルの低さ、なにより犬がとてもかわいいことが功を奏したところだろうか。
SNSのほうは拾ったもの報告ポストが思ったより多く、感想をたくさんいただけて、企画のお礼絵も喜んでいただけて(犬がすごくかわいいおかげ!)、プレイした方とちいさく交流もできた。プレイ人口の流入の約95%はSNS経由(ほかはitch.io新着ページから)ということで、結果的にはSNSや企画やってとてもよかった。遊んでもらえて、感想もらえてほんとうに感謝。感想特にない人も遊んでくれてありがとうございます。

いろんな感想をいただいて、短時間のシンプルなゲームだけれど、名付ける・なでるという仕草を通じて犬に強い愛着を持ってもらえたり、不思議な小粒ノベルゲームとして遊んでもらえたり、昔飼っていた犬との記憶を思い出してもらえたり、プレイヤーによっていろいろな遊び方をしてもらえたのがうれしかった。思い入れのあるエンディングも人によってさまざまでした。
あと、犬を飼ったことがないまま作ったシナリオなので、実際に犬を飼っている・飼っていた皆様にもわりと好評でよかったです。犬飼ってる人をいたずらに不安にさせたり、実感からかけ離れた話になっていなくて安心しました。
個別の返信企画などはプレイヤー数が多くない個人ゲームだからできる方策だけれど、趣味の小品だからこそ、どうせ公開するなら作ったものが遊んだ人にどんなふうに感じてもらえるのか自分は知りたいので、SNSしぐさ含めて楽しめたらいいね。
プレイフィールとKentucky Route Zero
ゲームをプレイして、飼っていた犬や大切だったもの、それらがそばにいたときの心情や風景のことを思い出した、という感想を多くいただいた。感想見て気付いたけれど、プレイしてくれた人は自分が書いた以上の豊かなものを作品から受け取ってくれている。
むかし飼ってた犬の名前を付けて遊んだので いま飼ってる犬と去ってしまった犬のこと、 撫でられることと、もう撫でられないこと、 記憶の中の感触や匂いとか、 色んなことに思いを馳せました。
死んだ実家の犬との思い出が重なりました
虚数iで撫でた犬が消えた時に昔飼っていた犬を思い出しちゃいました。
どうあろうと「犬」と「あなた」は互いを強く想っていることがわかって胸がすくような愛しさと嬉しさがありました。
ずっとずっと前に亡くなった最初に飼った犬の名前でプレーしていたので珍しくセンチメンタルな気分に
犬と毎日お散歩してた時のこと思い出す
子どもの頃に実家で飼っていた犬と、犬にツンデレだった父親のことを思い出し、進学で最期まで一緒にいられなかった後悔の気持ちを思い出し、寝た…
(いただいた作品タグツイートから抜粋。深く感謝)
推進力のある物語や魅力的で個性豊かなキャラクターたち、強く訴えかけるメッセージ、キャッチーで印象的なフレーズ、特別な体験を作り出すことは私にはできない。けれど想像力や思い出や記憶、信頼や喪失の経験、自分が作れる作品それ以上に豊かなものは、プレイヤーの中にすでにある。普段は表に出ることないそれらが、作品をプレイすることを通してよみがえる瞬間があったら私はうれしい。
記憶や感情は、大きく強い表現のなかだけではなく、犬をなでる、何度も名前を呼ぶ、しっぽが揺れる、風が吹く、存在の重み、不意に気づく時間の流れ、物語にもならない取るに足らない感覚のなかにもある。犬は、ゲームの中のかわいらしく小さな一キャラクターであるとともに、あなたが名付け特別な思いがあるならば個別・具体のあなただけの「犬」でもある。
このようなプレイヤーの記憶や想像力に添う体験は、文章だけではなく、絵、音、アニメーション、プレイヤー側のささやかなインタラクト、ゲームという双方向メディアの強みを使い、そして「犬」という強い記憶を共有するイメージがあってこそ、不慣れな自分でも作ることができたのだと思う。
言葉と感覚により失われたものを蘇らせる試みは、文芸・芸術・地域・歴史・社会など多くの要素を精巧に組み合わせ、より広い射程で美しく再現しえたKentucky Route Zeroを意識しているけれど (文章に大きな起伏が少ないことや、五感を想起させる言葉が多いのはここの影響)、さらに自分の記憶を遡れば、そこには近代文学の金字塔のひとつ「失われた時を求めて」*3がある。
ずっと不思議に見つめていた偉大な作品たち、その魔法のような要素のうちほんのひとつでも、「犬をなでる」という最小で限定的な形ながら自分で再現することができたのはとてもうれしいです。

総括
「犬をなでるゲーム」はちいさいノベルゲームで、尖ったとか個性的な作品とかではないけれど、自分のすきなものを詰め込んだものができて、ほかの人に体験してもらえたのはうれしいです。絵とか音楽とかなにか作れる人は、気軽にゲーム作ってみると楽しいんだろうなと思いました。
ひょんなことから自分のアイデアと文章をゲームという形にしてもらっただけで、ゲームつくったというのは烏滸がましいのですが、制作者のHumanoさんのおかげでかわいい犬を撫でられるゲームがこの世界にひとつ増えたので非常に満足しています。ゲームを作るのは楽しく、いろいろな人にプレイしてもらえて、たくさんのすてきな感想をいただけて、大変恵まれた作品となることができました。
これでハッピーエンドです。
終わりに
たくさんの終わりがあって、予期していないことが起こる終わりや悔いが残る終わりもあるし、べつにハッピーじゃなくてもいいけれど、このゲームの犬はどのエンディングでもハッピーです。
遊んだその人だけのハッピーエンドが見つかるといいなと思います。
