2023年末に「令和ビデオゲームグラウンドゼロ」で『オルタナティブな作品』というテーマでYoutubeのコメントでお話しさせていただいた2023年発売のゲームレビュー3本を追記・補足のうえ再掲します。
2023年の世界を覆っていた雰囲気を、すこし違った角度からデジタルゲームというメディアで見られたらいいなと思って書きました。あなたがまだプレイしてない、もうひとつの作品と出会うきっかけになれば幸いです。
Fading Afternoon
消えゆく真昼。
The Friends of Ringo Ishikawa等を開発したロシアの個人ゲーム開発者yeo氏の新作。出所した時代遅れのヤクザの男性をくにおくんライクなゲームスタイルで、ときに叙情的にときに虚無的に描く意欲作。ゲームの概要・魅力についてはヨージロ氏によるファミ通レビューが詳しい。
多様な選択・エンディング分岐がありながら結末はひとつというドライなストーリーテリング、必要十分な描写と余白を残したドットグラフィック、泥臭くどこかリアルさの残るアクション、間を持たせた映画的演出と密度高く豊かな人間描写と、語るべき内容に収斂していくスタイルの統一性は他作品と一線を画す本作の大きな魅力である。
一方で不親切なチュートリアル、リプレイによる魅力を味わうためのゲーム導線の弱さ、多発するバグなどの阻害要素も多く、アップデートも打ち切られたことから、本作が評価を上げるのは難しい状況となっている。
だが、確立したスタイルにより北野映画や実録ヤクザ映画などの映画で見てきた感傷・感動がビデオゲームのなかで体感できるのは稀有な魅力であるとともに、映画やゲームなど日本カルチャーの中で描かれてきた(一定傾向内ではあるが)様々な「男らしさ」の魅力・弱さ・限界が、ロシアという国で受容され、ゲームとして結晶化された現状ほぼ唯一の作品である。
なお、ヤクザ映画を踏襲するような言葉遣いを反映した、良質で素晴らしい日本語ローカライズにも賛意を表したい。
そして本作は、多様なセクシャリティ・生き方を肯定していく現代のメインストリームとは正反対のところに存在する。強さと暴力の仕切る社会にしか生きる場所を見いだせなかった男は、それがどんなに叙情的に描かれようとも、期限切れで死を迎えることしかできない。
この作品が2023年のロシア・モスクワで完成したことも偶然ではないはずだ。
台北大空襲
1945年5月31日、第二次大戦下に日本領であった台湾は敵国となる米国から空襲を受けた。政情の複雑さから埋もれがちだった台北大空襲、そして日本占領下の歴史を、少女の視点から描くアドベンチャーゲーム。
開発者の祖父の話が開発の発端となっており、為政者や軍人ではなく、一般市民の視点から戦争を描く。ゲームの概要・魅力については洋ナシ氏のIGN記事が詳しい。
本作の美点は、しっかりと時代考証がなされた美術・文章と共感しやすいキャラクター・ストーリーにより、ほとんど忘れられ、埋もれていた空襲及び日本統治時代の台湾という過去をゲームという形で体験できることだ。
全編に置いて丁寧かつ誠実につくられており、ストーリーは単純な善悪二元論に陥ることなくほどよくミステリーを追う展開が続く。エンディングも簡単な結論・カタルシスに回収させずに終わっていくことは、既存の歴史を扱い伝えようとする作品として高く評価できる。
一方ゲームとしての遊びの部分は非常に簡易で、万人向けのアドベンチャーとして仕上がってはいるが、This War of Mineのようにゲームプレイがストーリーテリングと結びつく作りにはなってはいない。むしろ既存の簡素なステルス・アクションに寄せたゲームパートについては、空襲の中を平然と歩き回るなどのプレイができることにより、作品の美点であるリアルさを削ぐ結果となっている。
本作は、Varient HeartsやSvoboda 1945など実際の歴史としての戦争を体験・回想させるゲーム作品群の中でも、少女と犬を主人公に据え理解・共感しやすいストーリーを添えてポピュラーな形に落とし込むことで体験の敷居を低くするとともに、東アジアを舞台とする貴重な作品となっている。
さらに、各種専門家による多くの時代考証、日本人含めた事前テストプレイ・フィードバック、英語・中国語(簡体字・繁体字)・日本語に加え韓国語を追加対応した言語対応などの取組みを通じて、東アジア圏で歴史を共有しようとする試みをゲームへと明確に反映させている。
現代において、ゲームもまた戦争を語るメディアである。悲惨な出来事は現在進行形で発生し続け、渦中で出来事を語るのは難しく、過去の出来事を語る人々は時と共に消えてゆく。それでも2023年に戦争をゲームで誠実に語ることを考えた時に、80年近くの時を経てなお忘れずに新たな形で語ることができるのだと、ひとつの可能性を示した作品として本作を薦めたい。
台湾メディア「The News Lens 日本語版」による開発者インタビュー。詳細なインタビューにより複雑な開発経緯や本作に込められた思いが語られる。
※2024年3月追記
現在進行中の戦争・紛争を描くゲームとして、キーウのゲームスタジオで作られたUkraina War Stories(2022年10月リリース、無料、日本語対応)、ガザの子どもたちを描く詩を題材とした小品Oh Rascal Children of Gaza(2024年2月リリース、無料)などがある。
実体験ベースの戦争ノベル『Ukraine War Stories』では、日本のプレイヤーが世界最多。その理由を開発者に訊いた - AUTOMATON
【Oh Rascal Children of Gaza】ガザの子どもたちに寄せた詩をプレイして体験するゲーム - YouTube(ゲームライターのドラゴンワサビポテト氏による紹介動画)
ふりかけ☆スペイシー
こういうゲームもありうるんだというオルタナティブなゲームの可能性を示す作品。
サブカルへの執着、糸井氏への個人的な愛憎、独特なセンスなど大きく人を選ぶ要素が強く、自分自身も作品にノれたとは言い難いのですが、それでも大量の小ネタとテンポの良い展開、豊富な演出で最後まで興味深く遊ばせる力のあるノベル?アドベンチャー?ゲームです。
一番の特徴であるサブカルノンポリパロディ・風刺描写は、攻撃的でありながらも隙とチャーミングさが勝ち、根強いファンが多いのも納得の出来。今後発売されるシリーズ2作目では、実際に取材に行った東南アジア各国を舞台にするということで、良く言えば濃厚、悪く言えば内輪的だったテイストが、海外という他者に触れてどう変わっていくのか楽しみなシリーズとなっています。さらに、Switchへの展開や多言語化(ふり☆スペの翻訳とは?)を目論み、今後のシリーズ展開に向けた意欲も十分。
無謀なまでに社会に切り込もうとした昭和の前衛芸術の熱をすこしだけ感じさせてくれるネオ昭和の世界、日本のゲームでこの作品だけが持つ怖じない風刺と奇妙な脱力感でこれから何をどう表現するのか、ますますのシリーズ発展を祈念してお薦めします。
※2024年3月追記
パルワールドという日本発のパロディ・風刺色が強い作品が様々な議論を呼びつつ世界的スマッシュヒットを飛ばしているので、ちょっとパロディに対する風向きが変わってくることもあるのかなと思っています。パルワールドが作られたことの意義や批判については、こちらの議論が深掘りしていて、とても興味深かったのでおすすめです。
出るべくして出たのか!? 話題沸騰『パルワールド』を徹底的に語り合う:#380 しゃべりすぎGAMER - YouTube
あとがき
「令和ビデオゲームグラウンドゼロ」は葛西祝氏主催のオルタナティブなゲームメディアというコンセプトでゲームを紹介・批評するメディアです。
よそさまで話すということで、いろいろなレビュー・感想を読むのが好きなこともあり、様々なレビューや議論を引用しながらいつもと少し違うスタイル・方向性で書けて楽しかったです。
このたびの機会をいただけたことを改めて感謝いたします。