“Kentucky Route Zero” Act.5をより理解するためのWEVP-TV番組ガイド

これは「ケンタッキールートゼロ」をAct.5までプレイし、より本作について知りたい・考えてみたいという方に向けた記事です。全編ネタバレ注意。

※日本語スクリーンショットは非公式日本語翻訳modを使用

 

 

はじめに

本作の最終幕であるAct.5は過去の「町」の記憶、登場人物たちの他愛ない会話、そして町と馬の追悼など、様々な情報が断片的に示されて終わっていきます。新しい情報が多く、全体像がつかみにくい章ですが、会話のバリエーションが多いため、繰り返しプレイすると何が言いたいのか何となくわかってくる作りとなっています。



そしてAct.5の公開直前に公開されたビデオ群に、第五幕の舞台となる「町」についての補足情報があります。それが、町のコミュニティ放送局である「WEVP-TV」のアーカイブです。このビデオアーカイブは、ゲーム開発会社であるCardboard Computerが作成したHP及びYoutubeチャンネルにあげられています。
WEVPによって製作されたビデオたちからは、電力会社と町の複雑な関係、WEVPを始めとする地域コミュニティによる表現活動、ニッキの詩や送別の辞で語られる「町外れの者」の死の経緯、洪水に備えて町に作られるはずだった排水溝の建設がついになされなかったことなど、ゲーム中で断片的に触れられた町の情報をもう少し知ることができます。
「町」とはどのようなところで、どのような問題を抱えていたのかのか、これらの動画を見ることでもう少し考えてみることができるのかもしれません。

 

WEVP-TVとは

WEVP-TVは統合電力会社が始めた地域放送局で、当初は森の中にある監視カメラ映像を放送するために使われていたが、その後、会社の研修ビデオや一方的なメッセージ番組を放送していた。

電波独占法違反に伴う裁判所命令により、WEVP-TVの運営は統合電力会社から地域住民に引き渡され、統合電力会社はWEVPへ助成金を支払うこととなった。その後、WEVP-TVはローカルコミュニティ放送局として住民や地域アーティストの自主製作番組を放送してきた。全体的に手作り感が強い。

局で一番有名な番組は「裸のバンジョー男」

 

Kentucky Route Zero開発会社Cardboard Computerが作成した、番組アーカイブHPが残っているとともに、Youtubeでも放送番組が公開されている。

WEVP-TV - YouTube

 

 

放送動画アーカイブから

The Evening Broadcast

第4幕幕間劇”Un Pueblo De Nada”実写版。実際のゲームプレイと合わせて見ることもできる!

この中でリタが作った町の歴史番組”Un Pueblo De Nada”、町の人たちが作った謎の動物ビデオ”WILD”や謎のアート作品”CAVE ART”も流れる。



エルモの週刊天気予報

第四幕の幕間劇”Un Pueblo De Nada”当日に放送していたエルモのドラッギーな天気予報。嵐の到来を警告している。

 

ウィーバーの海賊放送

”Un Pueblo De Nada”で話されていたウィーバーの海賊放送。これがWEVP-TV最後の放送であり、作品全体の鍵となる。

字幕内容

『できるだけ深く地下へ潜って。空気は冷たく、大地は湿っていて、眼を閉じれば死者たちがとり囲んでいる。その場所がどこだか覚えている?その場所からたどり着ける。そこがあなたの探している場所。すぐに洗い流されるものもあるけれど、郵便局や学校、そしてあの悲劇的な馬たちがいなくなっても、あなたならここで幸せになれる。』

 

Junebug "Static Between Stations"

WEVPの音楽番組”Night Noise”で歌うジューンバグとジョニー

クール!

 

まさかの360°バージョンもある。個人的にはこっちの動画がすごく好き。

Junebug- "Static Between Stations" 360° - YouTube

 

Aunt Connie(コニーおばさん)

統合電力会社から町に居住している労働者に向けたメッセージを伝える企業提供放送。コニーおばさんが町のご意見箱に寄せられた意見に答えたり、会社から町へのメッセージを紹介する形で進んでいく。

#1から一部抜粋

排水溝建設のために、「町外れの者」が招かれた。
多くの人が「町外れの者」が労働価値を脅かすのではないかと危惧している。
地区名をより親しみやすくするため、ドッグウッド通りの先の「浸水区」として知られていた地区は「エスニック区」に改名された。

 

#2から一部抜粋

町外れの者は排水溝建設のため勤勉に働いている。
エルモが新たに天気予報士として来る。大雨について警告している。
町には文化的伝統傾向として嫉妬的な防御反応がある。
紙の花をコニーおばさんにプレゼントする風習について。

 

#3から一部抜粋

私があなたたちを守ってあげられるのは、あなた達が疑いから町を守っている時だけ。
緊急放送:「町外れの者」の死
町は次の段階に行くべき時なのかもしれない。

 

WEVP TV Technical Difficulties

WEVPに破壊的被害が乗じたときに流れる自動メッセージ。
同時に、崩壊した「町」へのメッセージでもある。


 

これらの動画はあくまでゲーム本編を楽しんだ人に向けた補足要素ですが、地域コミュニティの表現活動であるWEVP-TVの番組を通じて、コミュニティに属して活動することの楽しさ、自由・不自由さ、困難さが少し見えてくるのではないかと思います。

 

 

おわりに

Act.5の主役は、人間や幽霊たちであるとともに、彼らの居場所であった「町」という場所そのものでもあります。

 

町の記憶は、今はもうその場所にはいない幽靈たちの記憶として語られます。古の人々により「町」が実験的に作られたこと、かつて洪水により沈んだこと、専制的民主主義などの問題を抱えながらも続いてきたこと、公共滑走路や企業城下町としての実験プロジェクトが立ち上がっては破綻してきたこと。

Act.5の中ではこれらの歴史的な経緯を縦軸として、WEVP-TVで描かれる現在の町の状況を横軸として、より立体的な「町」のイメージが立ち起こってきます。

 

そして私が「町」を考えるとき、その場所は2010年-2020年を背景とするアメリカ・ケンタッキー州の物語であると同時に、日本を含む近代化を遂げた国々のなかで経済や不可抗力により傷つきながらも存続してきた『コミュニティ』、そのより普遍的な象徴としての「町」を見出すことができる、のかもしれません。

 

Act.5で訪れる崩壊したコミュニティである「町」、その場所がシャノンたちの新しい居場所となるか否か、そして町がこれからどうなるのか、それはあなたがゲームの中でつくりあげていく詩を通じて紡いでください。