Twitterに書いた感想まとめ
夏笳『おやすみなさい、メランコリー』
ながいひとりごと
同作者の「童童の夏」と同じく、孤独と精神のすき間をすこしだけ埋める科学技術のあり方にほんのり希望を感じられてよかった
張冉『晋陽の雪』
歴史の重みに呑まれたSF
1000年前に行って科学力で俺Tueeeする異世界転生テンプレかと思ったけど、最後の急展開が重くて残酷で美しくすごく良かった。彼の国の歴史の無情と重さがこの展開に説得力を持たせてるんだと思う。
あと雷朋(レイバン)の黒眼鏡!
糖匪『壊れた星』
SF?
哀しい青春小説の趣き
韓松
『潜水艇』出稼ぎの民と都市住民の距離感、そして国家権力の大きな影。
『サリンジャーと朝鮮人』資本主義的逃避主義とアジア社会主義の衝突。
現実とフィクションのはざまの美しさとユーモア
本当はドキュメンタリーや評論で扱うのがより適切な内容だとも思う。だけどフィクションとして描かざるを得ない何かも読んでいて強く感じる。だからこそ風刺のような皮肉のような諦めのような傍観のような美しさやユーモアが生まれるのかな
程婧波『さかさまの空』
SF、すなわち知的好奇心と科学的実践を讃えるファンタジー
SFの一番良いところを純化させ、美しく結晶化させたような短編ファンタジー。文章がきれい。
宝樹『金色昔日』
北京オリンピックから天安門事件、文革などを経て日中戦争まで時が巻き戻っていくごくごく個人的な時間巻き戻りSF
壮大でありながら、個人が歴史と社会の中に溶けていってしまうような非常に『中国』を感じるSFだった。
中国は現在の負担と長い歴史の重荷を積んで走る長い貨物列車のようだ。・・・その渦がだれものぞもない深淵へすべてを引きずり込もうとしている。その過程はいかなる個人も勢力も制御できない。歴史にはあらがえない。渦中の僕らに自由はきかないのだ。
郝景芳『正月列車』
頭の体操SF
餃子のような時間・空間解説図、餃子の失敗作のような時間・空間解説図が可愛い。
飛氘『ほら吹きロボット』
宇宙開闢のSF
Outer Wildsじゃん…
ほら吹き王の命令で宇宙一のほら吹きとなったロボットの宇宙冒険譚。どこまでも軽やかで楽しくて、でも現実から目をそらしていないの良い創作だね。
劉慈欣『月の光』
何も起きないエネルギー革命SF
話運びにおける入力・結果のサイクルが非常に効率的で短編SFとしてよくできてると思った。入力の些末さに対して結果がいちいち大げさなのがばかばかしくてよいね。
馬伯庸『始皇帝の休日』
PCゲーマー始皇帝のお気に召すまま
エンタメSFとして最高。
諸子百家のおすすめで「シヴィライゼーション」で『始皇帝』プレイをする始皇帝、「シムズ」で隣人が朝貢に来ないのでキレる始皇帝、「Plants vs Zombies」でTDにはまる始皇帝などが読めるぞ!
「沈黙都市」読んだとき思ったけどやっぱりこの著者の方、文章がすごく読みやすくてサービス精神が高くカルチャーへの理解が深いから、エンタメ作品との相性がすごくよかったな。
陳楸帆『開光』
持てる者の無責任と罪悪感のゆくえ
怪しげアプリ「ブッダグラム」をマーケティングした結果起こる世界の量子的崩壊について。IT会社の偉い人だから書ける業界のリアルなうさんくささが楽しい。
虚飾と欺瞞を嫌悪しているのに、抗うための確かな知性と意思があったはずなのに、そこから逃げきれず再生産することで生きているという自己矛盾が文章に緊張感を持たせていてすごく好き。
多くを求めすぎたせいだ。多すぎて心身の限度を超えたのだ。
俺の仕事は需要の創造だった。生活に不要なものへの欲求を人々の心にかきたてる。そうやって得た金で俺もまた他人が作った幻想を買う。そんなゲームを飽きもせず繰り返していた。
女房の言葉を思い出す。息子さんはなんでも他人の言いなりで赤ん坊同然……。
たしかに赤ん坊かそれ以下だ。これは罪過であり業障だ。清めるべき因果だ。
陳楸帆『未来病史』
専制的社会体制を絡めながら人文・科学知識を散りばめつつ透徹したユーモアを感じさせるのが、少しだけレムの『泰平ヨン』ぽくて良かった(レム原理主義者なので)
次は長編でこの病の先に何を描いてくれるのか見たいな
(まとめ)
歴史の重さを感じさせる作品が多かった。複雑な円環構造を300周くらいしているのではないかと感じるくらい重たさを感じた。
一方で、今までとは違う大きな変化の渦中で取り残される人・変わってしまう感情などの矛盾をなんとかSFという枠組みで描こうとしていてその緊張感は面白かった。あと文体流麗なひとが多いのは単純によい。(翻訳者の方の力量のおかげでもある)
韓松の複雑な社会・感情を内包させた短編とか、馬伯庸の強記博覧エンタメ短編とか、ユーモラスかつ文学的想像力の魅力ある飛氘の掌編とか、陳楸帆の新しい長編とかもっと読めたら楽しそうだなと思ったので、良い短編集でした。