「すずめの戸締まり」感想と物語にはならない話

誰がための物語

 

良い物語だった。

景色がとても美しいことやアニメーションの快楽にちゃんと意味があること、2022年に災害を、恋愛を、物語として描くとき誠実であろうとし続けるバランス感覚を自分は好ましく感じた。

過去作からなんとか変わり続けようとする姿勢が作品として好きなんだと思う。だから次を楽しみにしてる。きっとまた変わってくれるだろうから。

 

見ていて、東京に住む生者のための物語なんだなと思った。それは被災地ではない場所で生きる多くの人が求めるものなのだと思う。そして、その場所で現実を生き続けてきた人には受け容れられない物語なのかもしれない。

 

 

 

思い出した東日本大震災に関連する話をふたつほど。
10年以上の時間と物語にはならないもの。

 

閖上の掘立柱-震災後に嵩上げされた堤防と共存するオフィス-

土地への不信とそれでもそこで生活し続けること。

仙台出身で、国際的に活躍される建築家の方が宮城県沿岸に作った建物。どこか孤独に屹立する建物が簡単には起きた出来事を書き換えられない重さと、そこで良い生活を営もうとする意思を感じさせる。いつか実物を見てみたいな。以下は建築賞を受賞した際の選定委員の講評。

「建築家の設計も構造家の技術も、機能と合理に基づいてストレートである。しかし、その立ち姿はなぜか異形で、日本という過酷な自然環境に住み続ける困難を写す鏡のように、私たちの心に問いかけてくる」

 

こちらの建築に優秀賞を与えているAND賞は建築・構造を一体的に審査するなどちょっと独特な建築賞で、「懸垂鋼板が空に漂うKAIT広場」などほかの受賞作も気になる。門外漢ながら、アワードとしての意義の現代性、ほかの賞との差別化、選定過程の透明性・動画で見れる議論や選評含めて面白いなと思ってる。

 

 

大槌町役場職員

当たり前の役場の昼休みが終わり、地震が起こり、津波に庁舎が呑まれ、多くの職員を失ったことに対する自治体としての災害検証報告書。

町役場で働いていた方の2割が亡くなるという甚大な被害はその悲惨さだけじゃなくて、町の公式資料の朴訥とした筆致でひとりひとりが平凡で当たり前にそこにいた様が描かれ、ほんとうにふつうに生きている人がいなくなってしまうことが悲しい。生きてても亡くなっても同じ職員だという前文、元職員で現町長の前書き、現在の職員が亡くなった方ひとりひとりへの思い出を語る章…

悲しいだけでなくて、町長や公務に携わる多くの人、資料、庁舎を失い、残された職員の少なからずが心身を壊し、町の復興自体にも大きな支障をきたしたことはとても重い。
それでも10年経って、ちゃんと向き合い公式に検証報告書を出したことは、同じ町に生きてきた残された方と死者へのせめてもの誠実さなのだと思う。

 

 

いろいろ考えられたから、自分にとってはいい映画だったのかな。